◇渋谷真コラム「龍の背に乗って・キャンプ編」
18日間の臨時コーチ期間を終えて、今中慎二さんはまず、「団体行動がきつかった…」と笑わせた。そして真顔になって、愛する古巣の投手陣について語ってくれた。「何を一番伝えたかったのか?」。僕の問いにこう答えた。
「若い子の四球が多い。そもそも(立浪監督からの依頼理由は)そこやから」
昨季の与四球445はリーグ最多。最少の阪神(315)より4割も多い。しかし、これは制球力の拙さを表しているのではない。得点を期待できないから失点を恐れる。失点を恐れるから四隅に投げようと神経質になる。つまり技術はあるが、そういう球はぎりぎりボールとなり、不思議と振ってくれないものなのだ。カウントを悪くし、走者をためる。恐れの根源は援護力の弱さにあるのだが、悪循環を断ち切るには投手が大胆さをもたねばならない。今中さんが授けたのは制球力を磨く技術ではなく、勝負の極意だった。
「真ん中高めのちょい甘に強い球を放れ」。若手投手にこう説いた。
「それが基本線。ただし(投手コーチだった)11年前にはそんなこと教えてないです」
日米の野球解説が本業の今中さんは、この11年の間に投手の高速化が著しく進んでいることを実感している。「とにかく低め」の時代は去った。勝野、清水、高橋宏、松山、藤嶋…。中日にも強いストレートを持つ投手は何人もいる。慎重だけの投手に打者は慣れている。大胆さをもてば、1球で打ち取れる。「ちょい甘」は、打者が食い付くエサなのだ。
「隅っこから始めるとしんどいでしょ。勝負付けは早く。特にリリーフは遊び球なんかいらん。ストライク先行は理想ですが、いかにボール先行の時に粘れるかですよ」 阪神の中軸打者はその典型だが、誘う変化球にはまず手を出さない。不利なカウントになるとますますストライクを投げられず…。この悪循環を断ち切るのは、恐れと窮屈さから解放されること。強いストレートがあるのだから、自信を持て。伝説のエースが残した言葉が、四球減につながると信じたい。